焦心苦慮2
【焦心苦慮2 】「しょうしんくりょ」文責・登記商号宮本総合事務所・行政書士宮本良三
あれこれ心配して、イライラとあせること。
恩義を感じる出来事があったので、恩師の墓参りに行った。お墓には、真新しい花が入れられていた。恩師の好きだった酒をお供えし、備え付けの大ジョッキ二つに水を入れた。何気なく物の動く方を見ると、当方の裏手の墓に三十代の男が杓で水をかけている。墓は大きく、見上げる感じの五輪塔がある。平均の墓地の五倍はありそうだ。
彼は十五メートルほど離れた場所にある水汲み場から、せっせっと水を桶に入れて運んでいる。やがて、水の飛沫が飛び込んでくる。コノヤローと思ったので、立ち上がって睨んでやった。彼は真面目でおとなしそうな印象である。ぺコリと頭を下げたので許す。
カチカチカチカチと何度もライターの音が聞こえてくる。「線香に火が付けへんのやな」と思うけども、下手に口出しできない。余計なことを教えると、今日は物騒なので、「コノヤロー!」と怒鳴られるか、質が悪いと喧嘩になって、怪我をさせられるか、刺し殺されるかも知れない。「墓場で怪我をすると、命ににかかわる!」と年寄りから教えられたのを覚えている。だから、ライターの空振りの音が何度もするが、放っておいた。
やがて成功した様子が煙で分かった。「よかったなあ。線香は風があると、上手に点かんもんなのよ」と内心、以前の自分の経験を思い出していた。サイレンがなり、マイクで閉門の案内がされる。「午後五時で門を閉めます」と車への注意である。彼はすぐ近くまで車で来ていた。「慌てる理由は車の締め出しか? 歩いて汗をかけよ!」と批判した。
彼は大急ぎで車へ戻り、墓の方には目もくれず、一目散に走って出た。ぼくは、少し気になったので、彼の拝んでいた墓を見物した。霊園では、家の盛衰がよく分かる。無縁仏に近い墓もある。「なんとかしてやれよ!」と管理者に注意したいほど、夏草が酷い。
彼の墓の墓標によると、平成二年に五十七歳で死んだ男の人がいる。その前に五つほど戒名が書かれていた。彼の線香と共に煙草と缶ビールが五つずつ置いてあるのを眺める。
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