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2009年2月28日 (土)

感知

【感知】

 午後六時になると真っ暗である。派手な電飾看板のスーパーに労務者たちが出入りしていたり、入り口付近でカップ酒を飲んでいる 愛燐地区から徒歩で六分の商店街では、作業服をきた者が酒を手にして歩いている。
 閉まっているシャッター前に貴方はビデオテープを五本置いていた。値段をきくと一本百円という。僕は買うのを遠慮した。とすぐに通りかかったリヤカーを引いた労務者が一本買って行った。……売れるもんやな。
 貴方がこのビデオをどうしたのかは、僕の知るところではない。しかし貴方は逞しい。人生のジャングルともいえる乱雑な場所でも生き延びている。商店主の油断を素早く感知し、閉まっている時間だけで目的を遂げる。

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2009年2月27日 (金)

場末

【場末】

 貴方が裏社会の顔役であったらしいことはその風体や態度で想像がつく。それに貴方をみかけると、こわそうな人がもみ手をして貴方に近づいて行く。……顔役や、と思った。 しかし貴方は場末の屋台の前に立った。僕の横に立ち、串カツにソースをつけ、ソースがこぼれてズボンについても平気だった。僕のみた感じでは、貴方はもう普通のそこらにいるルンペンとかわりなかった。
 しかし屋台の青年は、貴方を知っているらしく「親方」と笑みを浮かべていた。青年の言葉をきいて僕は不思議を感じた。……こんなおっさんが親方てか?、と思ったのだ。
 僕が遊びに行く場末には、こんな親方の末路がゴロゴロとみかけられるのだ。

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2009年2月23日 (月)

延命

【延命】

 新世界という繁華街を追われ、道路を隔てた商店街を下ったところに派手な電飾看板の食品スーパーがある。その近くの焼き肉屋がシャッターをしめて休んでいた。僕の目当てはその焼き肉屋だった。僕は自転車をとめて「チェッ」とシャッターを見つめた。すると貴方が座っていた。……寒そうやな。
 貴方は夜六時からシャッターの前に座っている。まだ人通りが多い。僕には貴方が、シャッターの前で眠るということが予想された 貴方はシャッター前にバケツで水をこぼして、座れなくする商店主から逃げてきたに違いない。「野良犬のように」扱われたのに違いないだろう。逞しく生き延びるためには、他人の目など気にすることは笑い種なのだ。

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2009年2月22日 (日)

尾行

【尾行】  貴女が何を思って自殺したのかを僕は知っている。「あほんだれのかす亭主めが!」とご主人の女癖の悪さを恨んで死んだことだ。 貴女の恨みは果たされた。ご主人はもうひとりでは立つことも、はうことも出来ぬ片端者になった。……天罰覿面ということだ。  貴女は優秀な女流探偵だった。貴女に教えられた尾行のことは忘れない。僕に「尾行内偵」という言葉を教えたのも貴女である。  貴女の元々は普通の主婦であった。ご亭主の商売が失敗し、泣く泣く探偵社の仕事に従事されることになった。……イヤイヤ。  二人とも頭角を現された。貴女は奈良で探偵社の所長だった。いまも僕には貴女からの電話の声が耳にこびりついている。

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2009年2月21日 (土)

活躍

【活躍】

 貴女は固定費に苦しんでいる。毎月の固定費は何百万円である。十一月も十二月も売り上げはゼロである。このまま推移すれば、来年は貯金が無くなってしまう。
 やはりスリム化が努力目標になるだろう。正義感の強い貴女は、困っている人を放ってはおけなかった。余所で使い捨てにされた探偵や事務員を拾ってきた。その人員の経費が利益を圧縮する。
 僕も貴女に救われたひとりである。僕と貴女とは親子ほども年齢さがある。僕は貴女を先生と呼びたい。貴女は反骨があり、興信所業界のトップに相応しい人格を持っている。 僕は願う。……素晴らしい十年をと。貴女にとって安心の出来る余生であって欲しい。

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2009年2月20日 (金)

畜生

【畜生】

 貴方は腕のよい職人と認める。努力家であることも知っている。貴方の朝は早い。三時か四時か知らないが、誰もが寝ている時間に起きて何かを製造している。
 貴方は午前中で何もかも終えてしまう。午後からは自由時間である。午後からの雑務は嫁さんに任せて、趣味の世界へ飛び出る。
 しかし貴方には「どろぼー」というあだ名が付きまとっている。貴方も自覚しているはずである。貴方が赤の他人の死体から腕時計を失敬したことはみられていた。
 貴方は世話になっていた人の腕時計を盗んだらしい。そんな噂が蔓延している。けれど噂段階ではないらしい。やはり貴方は酷い人格だった。……いぬ畜生、と思われている。

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2009年2月19日 (木)

末路

【末路】

 貴女は借金癖に麻痺している。楽に、楽にと借金を他人に申し込んでは、否定され、馬鹿にされている。……死ねば、と思うのだ。 貴女は兄弟をまず攻めようと考えた。そして二人に断られた。仕方なく親戚を頼ることにした。しかしことごとく断られた。
 本来なら貴女は楽隠居の身である。毎日が温泉三昧のはずである。三味線をひき、小唄を口ずさむ気楽な人生なはずである。
 貴女は毎月送金を受けている。それもひとり身には、十分な金額である。住まいも貴女の名義で、立派な屋敷がある。
 貴女は一種借金病なのかも知れない。誰かにお金を借りてでも、ギャンブルに打ち込む必要がある。博打大好き人間の末路である。

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2009年2月18日 (水)

大挙

【大挙】

 僕と貴方が知り合ったのは十三歳だった。以来、互いに還暦を迎えるまでの付き合いをしている。僕は貴方にエールを送りたい。貴方こそ偉い人である。……見習いたい。
 貴方は離婚に耐え、破産に耐えた。それにガンにも耐えた。僕は、……還暦まで生きられるか、と案じていた。他の友も「長生きはようせんやろ」と否定的な考えであった。
 しかし持ち直した。貴方の生命力がガンを吹き飛ばした。貴方の生きたいという生命力が勝利した。貴方の秘訣は、子たちへの愛だと思う。離婚しても子を思う親心に僕は感じ入った。貴方はいまも子たちに自分の給与の半分を送っている。僕には逆立ちしても真似は出来ない大挙である。……頑張れ、と願う

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2009年2月17日 (火)

法律家

【法律家】

 街の法律家も落ちるところまで落ちた。裁判所へ用件がある法律家も信用失墜。法務局と簡易裁判所へ用件のある法律家もゲロが出そうなぐらい。彼らは昔、人々に尊敬されていたように思う。それが今日ではどうだ。新聞の広告に恥知らずの売文を出している。地下鉄やバスにも、写真入りで気分の悪くなる文章で広告している。彼らの目的が弱者救済を美文看板にした、金儲けの裏返しであることは、派手な広告をみて感じ取られるのだ。 弱者を誘い込む広告文章を練るのが、法律家の主たる仕事になっている。誘い込む手口は、悪徳商法と少しも変わらない。弱者に戻った金を巻き上げる手口も巧妙になっている 彼らは、闇社会の人間と同じ類縁なのだ。

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2009年2月16日 (月)

電話営業

【電話営業】

 相談相手を引き込み、こっちのペースにはめ込む事が大事である。興信所・探偵社の事務所では、電話営業が重要なのである。さもしい根性をみせてはならない。猛々しい心情を感じさせてもいけない。相談相手は神経質なものである。貴方のちょっとした軽はずみな言葉に警戒し、ついには躊躇するのだ。
 メールで呼び寄せてみても、最後の最後は電話営業になる。相談相手に依頼を決心させるのも電話なのだ。振込依頼を決心させることも貴方の声の出し方や響きにかかっている 僕は振り込め詐欺の連中のマニュアルを研究すれば、効率のあがるセールストークが出来上がると思っている。電話営業が必要な調査業界の経営者は即実践するべきだろう。

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2009年2月15日 (日)

人柄

【人柄】

 貴方が僕を訪ねてきたのは三年ほど前だ。貴方は古い証券を持ってきた。僕への用件は「確認して欲しい」という依頼だった。僕は貴方から証券の詳しい入手経路や保管状態と経緯とをきいた。貴方はそれらにスラスラと答え、僕の差し出した委任状にサインした。 僕は貴方の要望に応えるべく、証券を持って各地を飛び歩いた。そして得た回答は、貴方にとっては、望まざるべき否定であった。 それでも貴方は僕からの報告を受け入れてくれた。そして僕に日当や報酬をくれた。僕は成り立たぬ用件に申し訳なく感じた。しかし貴方は「君の態度が素晴らしかった」と僕を讃えてくれた。僕のほうこそ貴方は人間として尊敬に値する人柄であると伝えたい。

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2009年2月14日 (土)

否定

【否定】

 僕は唖然とした。貴方が「豚肉は体に害毒である」といったからだ。貴方が何処でどのような情報を仕入れて、豚肉を食することが人間の体に害毒になる、と決めつけたのかは知らない。しかし豚肉を愛する僕にとってはこの上ないショックであった。
 僕は関西人であるが、関東に数年住んだ経験がある。そのときの友人が僕に豚料理を好きにさせた。関東では豚が肉料理の主体である。すき焼きにも豚肉を入れるのが関東流儀である。関西人にことのことをいうと大抵は否定されてしまう。……視野が狭いのだ。
 僕は豚肉の悪口をいう人間の存在を否定する。たとえ貴方でもだ。豚肉が害毒であると記述した書物をも否定する考えでいる。

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2009年2月10日 (火)

羨望

【羨望】

 西成の場末にある将棋屋が貴方の店と知ったのは四年前の春だった。貴方は二十歳年下の女を連れていた。「彼女や!」と僕に紹介した。女は男好きのするタイプで濡れた口が半開きしていた。……やりたい、と思う。
 貴方の正体を知ったのは、回り回ってのことだった。「元企業舎弟や!」ときいたときは、……隠されへんもんやな、と思った。
 貴方はスキンヘッドから湯気を立てて、女をいじめる。長い髪を二重三重にからめて、引っ張り、女の顔を歪めさせる。貴方は少し異常な面があるのかも知れない。それは昔やってたという覚醒剤の名残なのかも知れない 貴方は僕に自慢する。「七十になっても薬もいらんわい!」と。……羨ましい限り。

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2009年2月 9日 (月)

【自販機】

 二人の男が店内と道に立ち、なにかいい争いをしていた。近づいてみると、最近自販機を設置した七十男が三十代営業マンに食ってかかっていた。耳を傾けると、七十男が一方的に攻撃していた。男は、電気代ばっかりかかって困る。客足がバッタリや。一日に出る缶コーヒーの数はたかが知れてる。お前とこは必ず儲かるというたやないか。と顔を真っ赤にし、剥げたスキンヘッドのてっぺんから湯気がみえるような怒り方だった。
 営業マンは顔は恐縮しているようだが内心では、へん。欲ボケおっさん、何をぬかしてけつかる。自販機を置かして貰ってるだけでもあり難く思えちゅうねん。と口を歪めた。 僕は二人の猿芝居を高見の見物と洒落た。

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2009年2月 8日 (日)

本人確認

【本人確認】

 本人確認が求められる。住民票や戸籍を請求する場合、本人申請でも身分証明が求められる。

 司法書士や弁護士・税理士・不動産業なども本人確認書類の提示が義務化された。 

 探偵業法ではどうだろうか。大手興信所に依頼したいと聞いてみた。

 業法の施行で依頼時に契約書の締結が義務化された。とのことであった。本人確認はするのですか?。と聞いてみた。電話口の係員では不明だった。暫く待たされた。電話口に出た中年男性も、本人確認まではしません。といっていた。

 僕は畳み込んだ。そしたら、偽名での依頼もOKですよね。すると、中年男は黙って、考え込んだ。受けてくれますね!。と僕は続けた。 

 無理ですね。と男は用心深い口調だった。

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2009年2月 6日 (金)

民営化

【民営化】

 民営化で手数料が高くなった。手数料十円だったのが、百円になっていた。十を百で割ると十割である。郵便局の定額小為替担当の係員は、恐縮したような、変な笑い方をしてみせた。

 ある日。用件で定額小為替三百円が必要になった。最寄りの西成郵便局へ行く。 

 僕は郵便窓口で五人ほどの行列の後ろに並んだ。郵便の係員は、小為替は奥のカウンターです。と冷たい対応だった。

 僕はむかっ腹が立った。さんざん並んだ末に冷酷無比の応対である。僕は、こらあ!。と叫びたくなった。

 銀行なら、もっと応対は柔軟である。フロアマネージャーが居て、細やかな気配りをする。郵便局は違う。細やかな気配りがなく役人意識が抜けていない。郵便局の連中はもっと気配りに徹する時代と知るべきである。

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