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2009年6月17日 (水)

飲み会

【飲み会】

 七十二歳にしては若くみえる。髪は自分で染める。入れ歯も調整済である。月に一回は古女房を尻から攻めたてる。二歳下の女房は今度にして、次にして、と何とか逃げようとする。昨夕四時にミナミへ行き久しぶりに繁華街の空気を吸ってきた。待ち合わせたしたのは十二歳下の彼女である。彼女は飛び切りのお洒落をし、黒っぽい服でまとめていた。 二人は商店街の居酒屋に入った。三階の個室を目指したが、二階で店員から、待った、をかけられた。掃除が終わっておりません。との理由で、二人は二階のテーブルに座ることを余儀なくされた。生ビールで乾杯。余り寒いので熱燗を頼んだ。飲むと調子に乗り、二人で四合飲んだ。さらに生ビールの追加。しこたま飲んだ二人は、地下にもぐり何時もの店に入った。後頭部の禿げた五十九歳の店長が手ぐすね引いてた。カウンター席に二人は並んで座った。ここでは瓶ビールを何本も数えきれないほど頼んで飲んだ。店長や女性従業員にもビールをふるまった。調子に乗ってコック二人にも飲ませた。横で飲んでる赤い顔の七十男にも一杯飲ませた。酔っぱらってからんでくる五十男も横に座らせて飲んで貰った。帰りは何時もの十時閉店まで居た。店長は難しい顔をしてレジをうち、早く帰ればいいのに!というような横目で睨んだ。二人は暖簾を潜って地下道をヨタヨタ歩いた。

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2009年6月16日 (火)

【寝床】

 午前七時過ぎ、真下にシャッターを開ける響きを感じた。「いつも通りやな」と僕は思い、寝床で目を瞑ったまま、つぶやいた。   それから一時間半ほど、うとうとしていた突然戸が開けられ、「おい。鍵持ってるか」と、たたき起こされた。僕は起き上がり、服のポケットをみた。「持ってるんか! 俺が落としたかと思った」と貴方は僕にいった。 貴方は鍵を受け取ると、「毎朝決まった時間に起きる訓練をせんかい!」と僕にすてセリフを残して立ち去った。僕は仕方なく起きて部屋の電灯をつけた。「馬鹿親父。何をぬかしてけつかる。起きてどうなるちゅうねんどうもならん。どうせ仕事もあれへん。」と僕は起きてるふりをしてまた寝床に入った。

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2009年6月15日 (月)

惰眠

【惰眠】

 階下と階上とに仇同士のような親子が暮らしている。午後八時まで階下の僕は階上の部屋に行かない。僕が部屋に入った様子をキミはうかがっている。キミは野性の動物のように聞き耳を立て、安全を確認する。そして階下におりて獲物にありつくのだ。
 午後十一時に僕が階下へおりるのをキミは部屋で聞き耳を立てる。そして息を潜めている。僕が十二時を過ぎて部屋に戻るとキミはすぐにはおりない。三十分は様子をうかがうそして階下におりてくる。僕が寝たあとでキミは孤独の時間を楽しむ。そして深夜まで娯楽を堪能する。やがて朝を迎える。僕が決まった時間に起きるのにキミは惰眠を貪る。
 僕とキミは会話をせずに十年を過ごす。 

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2009年6月14日 (日)

我慢

  【我慢】

 私はストレスを感じている。お前の監視の目つきに苛立ちをおぼえる。お前は私の自由を奪っている。私をいいようにして使っている。私はお前が大嫌いである。
 私はお前が二代目を継いだ店に勤めて、かれこれ十年になる。勤めた理由は少しでもローンの足しになればという考えからだった。 先代が亡くなってから、お前は少しずつ本性をあらわにしてきた。お前たち夫婦は、私を追い出そうと、裏舞台で画策した。私もお前の考えを知り、このまま引き下がろうかと考えたりした。しかしもう一人の私がやめることに反対した。いいのか、いいのか、このままやめていいのか、と問われた。私は我慢して、お前の行く末を見守ることにした。

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2009年6月13日 (土)

身内

【身内】

 貴方は僕より一回り上だから、七十二歳。この前一緒に飲んだとき、貴方は「もう一花咲かせてみたい!」と抱負をいった。僕は応えて「そのとおり!」と貴方を励ました。
 僕は貴方に事業で成功して欲しいと願っている。貴方が成功すればするほど、僕も貴方に引っ張って貰えることで、小判鮫のごとく世の中を泳ぐことが出来るからだ。
 貴方は特殊能力を持っている。それは営業力であり、話術であり、人を引きつける徳性である。貴方と会話をする者は、自然と貴方の味方になる。しかし貴方は分身を失った。後継者と期待した者を奪われた。そんな塗炭の苦しみは僕にはない。貴方によぎる一抹の影が、身内を亡くした者の苦しみだろう。
                                           

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2009年6月12日 (金)

身勝手

【身勝手】

 私は入り口であることを知っている。それでも利便性に負けて自転車を置いてしまう。八百屋の小父さんが顔をクシャクシャにしている。……少しぐらいええやんけ、と私は貴方の入り口に自転車を置いて、八百屋でゴボウと白菜とを買った。
 貴方はじっとみていた。私は、……出てくるだろうか?、と一瞬身構えた。けれど貴方は出てこなかった。どちらが正しいのだろうか? 私も貴方もその答えがききたい。八百屋の小父さんも知りたいだろう。この三者の利害関係について。八百屋は野菜や果物を売りたい。私は野菜や果物を買いたい。貴方は入り口に自転車を置かれたくない。貴方はやはり、私や八百屋の身勝手を叱るだろう。

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2009年6月11日 (木)

心配

【心配】

 僕の心配は数多い。まず残り四日となった正月までの天気である。雨がふらんことを祈るしかない。それに荷物のことである。野菜が市場へ順調に運ばれることが望ましい。在庫のことも気になる。大型の冷蔵倉庫の機械が故障しないか心配である。毎朝五時にシャッターを開けて開店準備をする番頭の体調が気になる。弟の肝臓ガンの状態が心配だ。弟は空元気をみせているが、実は体がだるいらしい。弟に色目を使うパートの存在も心配である。弟と色恋が発展しないか気になる。僕は固定費のことが気にかかる。融資のことも心配である。果して期待通りの売上が出来るだろうかと思う。僕は心配で心配で、胃の調子が悪い。今朝も食べることが出来ない

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2009年6月10日 (水)

仕事

【仕事】

 貴方の様子が気にいったので、質問に答えた。俺は一人が好き。誰からも指図を受けない生きかたをしている。「ダンボールの仕事はどうですか?」と貴方はきいた。おれは正直にダメだと答えた。「この鉄枠のリヤカーは重さが八十キロある。それにダンボールを乗せたら、どれだけの重さを引っ張って仕事をするかわかるやろ!」と俺がいうと、貴方は真顔になって頷いていた。話が酒のことに移った。俺が「日に一升二合飲む」というと貴方は目をむいてびっくりしていた。俺が引き出しからカップ酒を見せると、「百円のやつやね!」と値段を当てた。「これでも日に千二百円飲むわけや。」俺は年齢も教えた。「六十五歳になっても、この態や。」と。

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2009年6月 9日 (火)

飲酒

【飲酒】

 僕はお前の誘惑に負けている。午後三時を過ぎるとお前を飲むことを考える。お前を二本買い求める。住吉街道を自転車で走り、やがて地蔵前の停留所のベンチに腰をおろす。  お前の一本を前籠から取り出す。お前を裸にむく。お前の蓋をとる。道行く人が好奇心にかられて僕の行為をみつめる。
 僕は知らぬ人から<酒飲み>として、眺められている。「こんなところで飲みやがってから!」と自転車をとめて、僕をみつめている娘がつぶやいている。「アホがなにをみてけつかる!」と僕は薄暗くなったバス停から娘を睨み付ける。
 僕はお前を飲み終えると、自転車にまたがり、次のお前を飲むために別の場所へ行く。

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2009年6月 8日 (月)

傷跡

【きず痕】

 お前に怪我をさせたのは、大学生のときだった。そのころ僕は精神科のある病院へ入院していた。病名は<薬中毒>だった。
 ある日の夜。娯楽室で十人ほどがテレビを見ていた。僕は窓際に座ってニヤニヤする男にパンチをあびせた。男は顔をヒョイとよけた。空振りの左拳はガラス窓を突き破った。「手を上にあげて!」と、看護師が叫びながらお前を止血していた。車に乗せられて外科設備のある病院に運ばれた。僕は顔も胸も手も血だらけになっている。お前のきずからガラス片が抜かれる。お前のきずを縫合する。僕はお前が元通りにならないのではないかという恐怖感を抱いた。お前のきず痕をみるとき、いまも当時への後悔がよぎってくる。

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2009年6月 7日 (日)

怒声

【怒声】

 僕は弟をみて……いらんことをいうな、と思った。しかし弟は調子に乗って、「出てきよる!」と客にいったのである。やがて客は立ち去る。しかし事務所からの罵声がきこえるようになった。「くそ、くそ。くそ、くそ。くそのくそ野郎」と大きな声がきこえる。通りかかる客がきき耳を立て、事務所の中をのぞく。客は立ち止まることもなく、通りすぎてしまう。また事務所から声がしてくる。「くそ、くそ。くそのくそ野郎」と大きな声がもれてくる。「客が帰ってしまうぞ!」と大きな声がきこえる。……ええかげんにせいよ!、と僕は事務所の男をうらむ。しかし男の怒りに火をつけたのは誰でもない。僕の弟なのだ。男の気が静まるまで待つしかない。
                    

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2009年6月 6日 (土)

注意

【注意】

 私は事務所の中に居る貴方を睨み付けた。「病気せんように気をつけることや。病気したら、何もかも失ってしまうで」と私は貴方のほうに向かっていい放った。八百屋は私に同調するように顔をニヤッとした。
  私は思い返しても腹立たしかった。かつてあのようにえらそうに注意された経験はない確かに貴方のいうのは正論かも知れない。しかし貴方は商店街で商売をしている身である少しぐらいは、客贔屓するべきである。私が貴方の家の前のドアへ自転車をとめたとしても、数分のことである。八百屋で買い物を済ませれば、頼まれても立ち止まることはないだろう。それを目くじら立てて、人前で大声で罵倒するのは、客商売として如何だろう?

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2009年6月 5日 (金)

辛抱

【辛抱】  貴方は奥歯をギュッとかみしめる。そして無言のまま呼ばれたほうへ小走りで近づく。貴方はまるで無抵抗な人だ。もう七十は越えただろう。小柄でやせた首にタオルを巻いて頑張っている。  貴方が一番の後輩と四十代の鬼パートがいじめている。織田さん、織田さんと語気強く呼びつける。そしてつまらない用件を指示するのだ。「なんでやねん。」と貴方は心の中で叫んでいることだろう。  パートのいじめを八百屋の社長はみてみぬふりをする。それは社長とパートとの腐れ縁のことだ。周囲の者たちも勘づいている。  僕は貴方がいつ懐からドスを引き抜いて鬼の首をブスッと刺すのか楽しみにしている。

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2009年6月 4日 (木)

波紋

【波紋】

 二人は仲良く台所の流し場と焼き場に並んで立っていた。焼き場の彼が「野菜サラダ」と注文する。「待ってた。」とばかり貴女は包丁をとりだした。そして器用に細かくキャベツを切った。こうして大盛りのサラダができた。やがて二人にいさかいがはじまる。
「なんで大きな皿に入れるんじゃ。」と彼は焼いているムニエルの調子が悪くて苛立っていた。「なんで文句いうのよ。」と貴女は攻めたてる。ジャブジャブと口の攻撃だ。
 彼はフライパンを放り投げると、戦場から離脱した。いわゆる敵前逃亡となるのだ。
 仕方なく貴女が代理でムニエルを泣きながら仕上げた。こうして二人の溝が深まり、やがて救いようのない大きな波紋となるのだ。

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2009年6月 3日 (水)

我慢

【我慢】

 月給五十万は繁華街で働く美容院のオーナーがもらう金額らしい。そんな噂をきいたことがある。たいしたことか、たいしたことがないかの価値判断は、オーナーの店で働く美容師の質によるのかも知れない。
 オーナーが五十万円とり、美容師はせいぜい頑張って二十万円らしい。歩合とかなんとかで月に三百万の売上が達成できて、はじめてオーナーと肩をならべる給料とりになる。 しかし保険もないし、ボーナスもない。退職金だってないらしい。ないないづくしだ。 そのくせ拘束時間は超長い。朝の九時から夜の九時まで立ちっぱなし。座るとオーナーが横目でにらんでくる。そんな地獄みたいな職場でいつまで我慢して働くのだろう。

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2009年6月 2日 (火)

本音

【本音】

 おまえは「どうだ。」といわんばかりのしたり顔をして三つ折りの鏡を動かした。そして「いかがですか。」と商売女の笑みを浮かべるのだ。
 おまえは仕方なくうなずく僕に「にあわないよね。」と横目してみかえるのだ。僕の胸元あたりを指で払いながら、「よく似合っておられますよ。」とベンチャラをいうのだ。 僕が勘定をしてドアから外へでたら、おまえは豹変する。僕の後ろ姿をみて「今の客さあ、なにやっても似合わないんだ。」とアシスタントにおのれの技術自慢をするのだ。
 僕はおまえの店から出て百メートルのところで髪をクシャクシャにする。そしてトイレを探して、自分でセットをやりなおすのだ。

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2009年6月 1日 (月)

面接

【面接】

 「午後九時の面接は遅くないかな。」と内心反感を持ちながら彼女は美容師のスタイリストとしての面接を受けた。
 オーナーは四十男で前頭部がはげあがっている。サイドの髪をイヤというほど伸ばして背中で一つにくくっていた。「なにをさらすねん。」と一瞬ゲイかなと感じた。
 ネチネチとうんちくをたれる。「なにがいいたいねん。」キッとみつめると、結局はアシスタントからの出発という条件である。  彼女は五年以上スタイリストとしてのカットやカラーの実績を持っている。それがアシスタントからでは、情けない限りなのだ。
 彼女は立ち上がり、履歴書を奪うようにして席を蹴ると、生ビールのある店を探した。

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